中学受験はすばらしい(1)

中学受験には様々なメリット、デメリットがあります。

このページでは中学入試とはどのようなものか、各学校の過去問を通じてその学校の先生方が受験生にどのような勉強をしてくることを望んでいるのか、また、各学校の校風の違いなどに触れながら紹介していきたいと考えています。

今回はその第1弾として、早稲田中学校2022年理科第1回の入試問題を取り上げていきます。

問題は学校の公式ホームページからご覧いただけます。
早稲田中学校2022年理科第1回の問題はこちらにリンクを用意しました。
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問題の背景

本問は時事問題なので、その当時の社会的背景をご説明させていただきます。

2019年12月に中国武漢市で発生した新型コロナウイルス(COVID‑19)はその後世界中で猛威を振るい、多数の死者・感染者を出しました。

日本では、2020年3月頃から学校が休校措置を取り始め、2020年4月には緊急事態宣言が発動されるなど誰も経験したことがない状況となりました。

新型コロナウイルスの発見から1年余り経ち、新型コロナのワクチンが開発されました。
2021年4月からまず高齢者を対象に接種が開始され、その後対象が拡大され、急ピッチでワクチン接種が行われていきました。そして、2021年9月には2回接種完了率が50%を越えました。

初期の新型コロナワクチンは年齢制限が12歳以上となっており、この問題が出題された小学校6年生は周りの大人がみんなワクチンを接種している時に、自分たちは接種できない状態でした。
6年生になり12歳の誕生日を迎えた児童は次々にワクチンを接種し、誕生日が遅い児童はコロナワクチンを接種することなく受験を迎えました。

この問題は誰もが興味を持った時事問題をテーマにしており、新型コロナウイルスについての知識を直接的に問う問題ではなく、問題文をよく読んで誘導に従いながら自分の知識を利用することが求められています。

解答

[1]

問1
問2
問3
問4
問5
問6増殖する

問題へのアプローチ

問1 早稲田中学校の受験生であれば全員が、小腸には柔毛というひだがあって表面積を大きくし、そのひだの中に毛細血管があり養分を効率よく吸収できるようになっていること、肺は肺胞という袋が多数あり、それが毛細血管に取り囲まれていることで二酸化炭素と酸素を効率よく交換できるようになっていることなどは知っています。
 問題文は誘導形式になっていますが、知識問題として解く受験生が多いと思われます。

問2 この問題は論理性と問題文を正しく読み取る力を問う問題です。

「肺が炎症を起こす→死ぬ」という論理には飛躍があります。
「肺が炎症を起こす→肺が正常に働かなくなる→二酸化炭素と酸素を交換できない→窒息死する」というように論理の飛躍を埋める問題になっています。

問1で肺は物質のやり取りをする(二酸化炭素と酸素を交換する)器官ということを確認し、問2で肺が正常に働かなくるとどのような事が起こるのか考えさせる問題になっています。

選択問題なので、選択肢が正しく読めていればエかオに絞り込めます。

問題文を読む限りでは「肺表面が正常に働かなくなる」というのが二酸化炭素を放出できなくなることが原因で酸素を吸収できなくなることを意味するのか、二酸化炭素は放出できているのに酸素を取り込めなくなることを意味するのかは分かりません。そのため、エかオのいずれが正解か確定できません。ただ、問3では「肺に取り込まれた酸素」がテーマになっていることから遡って問2を考えると最もふさわしいのはエを考えられます。

問3 早稲田中学の受験生であれば、健康な状態であれば動脈血が鮮紅色で静脈血が暗赤色であることは知っています。
 本問では肺が正常に働かなくなった場合に、血液中の酸素の量の変化を単純に増減で問うのではなく、血液の色と酸素飽和度(割合)という少しひねりを加えた形式で問われています。

問4 遺伝や免疫は小学校の理科の範囲外です。しかし、中学受験では範囲外の内容であっても問題文で説明を加えたり、小学生でも理解できるように簡略化して出題されることがあります。
小学校の理科の範囲外のことまで勉強してくることを望んでいるわけではないので、勉強の方向性を間違えないようにしていただきたいと思います。

新型コロナウイルスに関するニュースでは、感染者数などの統計的な側面、感染対策や経済活動・生活支援などの社会的側面、ウイルスや免疫などの医学的・科学的な側面など多角的な情報が報道されていました。

その中で科学的な面を興味を持って見ていたかが問われています。

インフルエンザワクチンは不活化ワクチンと言われるもので、感染力をなくし体内で増殖することがない病原体を体内に入れて免疫を作るワクチンです。
一方、新型コロナワクチンはm-RNA(メッセンジャーRNA)ワクチンと言われるものです。m-RNAはDNAから写し取られた遺伝情報を担い、それをもとに体内でタンパク質が作られ、そのタンパク質に対する抗体が作られます。

本問ではニュースで出てきた科学的な用語の中でDNAやRNAという用語の知識は求められておらず、ワクチンを接種することで免疫できて、感染しづらくなるということが分かっていれば正解できるように作られています。

問5 免疫の有無によって抗体のでき方にどのような違いがあるかを具体的・視覚的に考える問題です。

前述の通り小学生の理科の学習内容に免疫は入っていません。
ただ免疫力などの言葉として病気から体を守る能力という程度の理解はあります。

未知の病原体などに初めて感染した時にはすぐに抗体を作ることができずに時間がかかってしまい、病原体などが体内で増殖して重い症状が出る場合があるが、免疫があれば体内に病原体などが入って来たときに直ちに抗体を作り取り除くことで症状を抑えたり、軽くすることができると考えることができれば、アを選ぶことができます。

問6 植物や動物の分類に関しては小学校の理科の学習範囲内ですが、ウイルスのような「生物と無生物の間のもの」は範囲外です。
知識問題としてではなく思考力を問う問題として、ウイルスには細胞がない、呼吸をしないなどの無生物の特徴とウイルスは細胞の中に入ると増殖するという生物のような性質があることが出題されています。

繰り返しになりますが、中学受験で小学校の学習範囲外の問題が出題されることがありますが、学校側としてはそこまで知識として知っていて欲しいのではなく、問題文や他の設問、自分の持っている知識を活用して、その場で考えて欲しいと思って出題しています。
未知の問題に対して、問題文や自分の持っている知識等をどのように活用して回答していけばよいのかのトレーニングは必要ですが、答えを覚えるような勉強法は効果はほとんどありません。

まとめ

入学試験の問題は単に簡単、難しいというだけでなく、その学校が生徒として来て欲しい人物像を反映した出題がなされています。

早稲田中学2022年理科第1回の問題では、細かい知識を覚えるような勉強をするのではなく、基本的な勉強はしっかりと行った上で、下記のようなの学力を求めているように見えます。

  • 問題文をよく読む
  • 日頃から自然科学に興味を持ち、様々なことを疑問に思ったり、調べたりする
  • 論理的な思考力
  • 自然現象を具体的・視覚的に理解する

中学受験ではほとんどの児童は3年以上の年月をかけて受験勉強をして、たくさんの知識と思考力を高めるのトレーニングを行っていきます。
受験勉強は大変な面も多くありますが、小学生の段階で物事を深く理解する力を身に付けることができれば、その後の人生にも大きく役立つものと思います。